人・技術・文化をつないでいく家づくり土地の木材、人の絆により作り上げられた新築住居
概要
農業を営む家族のための住宅。木造平屋建て新築工事。福島県いわき市。
お施主さまの感想
100%満足できる家ができました。お世話になっている方々と集まりを開いて、同窓会で友人を家に招くことができた。強いて言うともう一つ客間がほしかった。冬場外から家に入ると、暖房はつけてなくてもほわっと暖かい。よく通るところにキッチンがあるので安心です。
物件名の由来
棟梁は施主の父親の仲間の大工、設計者は息子夫婦。職人達は地元の人々で親戚もいる。技術や文化の継承、材料も土地の木材を多く使った。人や文化、技術、木や土地とのつながりや絆が強い。つながる事、つなげていく事の尊さを感じ、印象的だったことから。
受賞歴
ふくしま住宅建築賞にて奨励賞を受賞。施工者・平子民也棟梁にも技能賞が贈られた。
工事費
約3400万円(設計料は含まない。※設計料は通常施工費の10%程度です)
物件エリア
福島県いわき市
施工面積
47坪
工期
設計:12カ月
施工:8カ月
家ができるまでのプロセス
主人の実家の設計をしたとき。山間部の農村地帯で農業を営む夫婦。その辺りで大工さんが家を建てるのが一般的。以前の家は、大工の棟梁でもあった義祖父がつくった美しい日本家屋で、東側にこじんまりした家族が過ごす茶の間、その奥の北側にキッチン、家の中央に広々とした仏間と客間、北側に水回りと寝室があり、昔ながらの典型的な間取りでした。両親の要望はこじんまりした平屋で、玄関ロビーが吹き抜けていて、北側の廊下は明るく、義母の趣味の手芸スペースが欲しいという内容でした。私は彼らの生活スタイルを普段から見ていました。母屋の西側の作業場で作業を終えて家に入るときは家の反対側の北東のキッチンの小さな勝手口から家に戻って洗面所で手をあらい茶の間に座ります。茶の間の義父の周りは新聞や本や書類やパソコンや小物が無造作に置かれています。義母は炬燵に入りながら手芸をし、仏間の一角にミシンや生地や手芸用品が置かれて、縁側を介して奥には光が入りにくく昼でも電気をつけてミシンをしていました。玄関は広い家の割にこじんまりしていてお盆などで人が集まってくると靴で一杯になっていました。
もっと使いやすく気持ちよく生活できないかと考えました。作業場に面し母屋に入りやすいよう西側に作業着をかけるスペースのある土間スペースを裏の出入口に。日当たりのいい家の中央にオープンキッチンのある吹抜けと高窓を持つ広々とした居間。居間で義父の席の後ろは色々入る大きな収納棚を作りました。気配を感じやすいよう居間に隣接して西側に寝室。アプローチからつながる南側に来客が入りやすいゆったりしたつくりの玄関とロビー。北側の水回りにはトップライトを計画し明るくなるように。リビング南側の日当たりのいいところに義母の裁縫スペースを。
仕事をしながら、まだ子どもが一歳で小さかったので、図面をCADにおこすこともできず、重ねてトレーシングペーパーに描いていた1/100のドローイングをコピーして持っていきました。吹抜けの部分は他の物件の写真を見てもらって説明しました。図面を見たとき、両親は以前の家とはあまりにも違い想定外の感じにぽかんとしていました。施工することになっている棟梁が「この辺りではあまりない洒落た間取りだ。」と後押ししてくれました。一晩たって、翌朝、私の描いた間取りの事を「面白いかもしれない。」と言ってくれました。その後主人と共に設計し打ち合わせを重ね詳細を詰めていきました。
建物の構造材に関しては、義祖父が敷地内の杉を切って乾かして使っていた話を思い出しました。同じように裏手の杉の木を何本か選びその場で自然乾燥させ主要な部分に使用することとしました。腕のいい棟梁は、義祖父の後輩で手刻みの加工ができたので、義祖父の技術を建物に残すような気持ちで全て手刻みとし人の手だけで全ての構造材を加工しました。その他の工種も地元の職人さん達の力で仕上げてもらい、中には初めてお会いする親戚もいました。
家が完成し広々とした居間の空間を見て、「住む人の風格を表しているな。自由でせいせいとした機能的な家、働き者の二人らしい空間だなあ。」と思いました。家を建ててそこに住むのではなく、「住む人のために家を建てる」ことができました。プロセスを大切に、私にとっては光輝く素敵な現場でした。今後もこのような物件がたくさんできたら幸せな建築人生です。